カンヌライオンズやアドフェストなどの国際広告賞では、最新のケースやトレンドがわかる授賞式やセミナー、作品展示に加えて、ネットワーキングのためのパーティが行われます。ここには近年、エージェンシーやプロダクションからだけでなく、アドバタイザー、つまりクライアントサイドからマーケターやクリエイターが多く参加しています。彼らは何を目的に参加し、ここで何を得ているのでしょうか。
今回は、ニューヨークを拠点とし、The One ShowやADCなどを主催しているThe One ClubのCEOを務めるKevin Swanepoel氏にお話を聞きました。
広告賞に自ら出品するクライアントが増えている
木村:今週(5月12~16日)はニューヨークでThe One Clubが主催するCreative Weekというイベントが開催されています。そこでは毎晩The One Show、ADC、TDC、Young Onesなどの授賞式が、昼は様々なセミナーが行われています。
ここにはエージェンシーサイドだけでなく、ブランドサイドの人も来ていますね。
Kevin:そうですね。近年は広告祭に参加するだけではなく、クライアントがThe One Showのような広告賞に自ら出品しています。ですので、エージェンシーではなく、クライアントが出品料を払うケースも増えていると思います。
木村:へー、そうなんですね。それはなぜですか?
Kevin:広告祭が、自社の社員教育やトレーニングの場として最適だと考えているからでしょう。多くのクライアントがクリエイティブチームを連れてきて、競合他社がどのようにやっているか、他の業界では何をやっているか、自社と比較しながら見ることができるからです。
木村:The One Showに出品したり、The One Clubのイベントに参加することで、具体的に何を学べるのですか?
Kevin:どのようにいいアイデアを見つけ、どのようにアイデアを評価し、どのようにその仕事を語ればいいのか。いい仕事をつくるためには、どのようにエージェンシーとつきあえばいいのか、こうしたことがわかります。出品すると、さらに学びが深まります。そのため最近は、多くのクライアントが「広告賞に応募したい」とエージェンシーに依頼することが増えているようです。
木村:確かに、私自身もそういう依頼を受けることが増えました。今までにThe One Showをうまく活用したブランドにはどのようなものがありますか。
Kevin:そうですね。過去を振り返ると、バーガーキングの元CMO Fernando Machado(フェルナンド・マチャド)はとてもクリエイティブなCMOでした。彼は広告賞を活用し、優れたアイデアをオープンに広く集めて、自社のブランド価値を大きく向上させたCMOだったと思います。
彼は誰からもよいアイデアを求めていたので、様々なエージェンシーが秀逸なアイデアを提案するようになったのです。バーガーキングの担当エージェンシーに提案したり、フェルナンド自身に提案したり。
木村:広告賞を活用することで、多くの優れたクリエイターやアイデアを引き寄せることができるということですね。他には、どんなブランドの事例がありますか。
Kevin:ABInBev(アンハイザー・ブッシュ・インベブ)が社内のマーケティングチームを集めて、The One Clubで1日かけてクリエイティブトレーニング・コンサルタンシーセッションを実施しました。
木村:ABInBevはバドワイザーやコロナ、ステラ・アルトワなどを抱える世界最大のビール会社で、広告賞では上位受賞者の常連ブランドですね。どんな内容だったんですか?
Kevin:セッションでスピーカーを務めたのは、The One Clubのクリエイティブリーダーたち。彼らをインスパイアする優れたアイデアを何からどう生み出すのかを理解するためのワークショップを実施しました。
こうしたセッションを経て何が実現されるかと言えば、彼らがエージェンシーにとって、よりよいクライアントになるということなのです。いいアイデアを理解することができるようになれば、その仕事についてより上手に語ることができるようになります。それがブランドにとってよりよい仕事となり、クライアントとそのエージェンシーのよりよい関係もつくり上げていくのです。
木村:僕らはクライアントにとっていいエージェンシーになろうと思っていますが、広告主もエージェンシーにとっていいクライアントにならないと、真にクリエイティブな仕事を生み出すパートナーにはなれないということなんですね。
Kevin:他にも、クラフト・ハインツ、スニッカーズなどを抱えるMARS、ユニリーバ、P&Gなどは、The One Clubが深く関わってきたブランドです。伝統的なブランドも革新的なキャンペーンによってThe One Showで受賞することで、ブランドイメージを刷新することができるのです。
The One Clubメンバーは、年間を通して様々なクリエイティブ活動に貢献
木村:日本でも広告業界の人にThe One Showは知られていますが、他のアワードとの違いを知っている人は少ないかもしれません。The One Showのどんな点がユニークなのかをご紹介下さい。
Kevin:カンヌライオンズ、The One Show、D&ADが世界3大広告賞と言われています。しかしThe One ShowとD&ADがカンヌライオンズと決定的に違うのは、非営利な広告祭であること。そこが、一番のユニークネスです。
我々は広告祭のシーズンだけではなく、通年で業界をサポートする活動しています。The One Showが得たすべての利益は、様々なクリエイティブの活動に還元されています。例えば、若いクリエイティブを育成する7つの学校を運営しています。また、この業界をより多様性豊かな産業にするための活動もしています。
木村:僕がThe One Clubのインターナショナル・アドバイザリー・ボードになって驚いたのは、本当に1年中様々な活動をしていることと、このボードのメンバーたち、特にアメリカ国内のナショナル・アドバイザリー・ボードの方々が、業界をサポートするための様々な活動に深くコミットしていることです。
The One Clubアドバイザリー・ボードのメンバーたち
Kevin:もうひとつのThe One Showのユニークネスは、受賞者のメンバーシップです。The One Show受賞者は、1年間無料でThe One Clubのメンバーになることができるので、コミュニティに入れたり、メンバー同士でネットワーキングできたり、Creative Weekをはじめとする様々なイベントに参加できるのです。つまりThe One Showで表彰されることは、単なる受賞者でなく、コミュニティの一員になることなのです。
木村:私もボードメンバーとして、昨日と今日、エグゼクティブ・クリエイティブ・サミットに参加しているのですが、ここは通常のカンファレンスとは一味違います。スピーカーのラインナップがすごいのと、会場は明るくてソファーもあって雰囲気も好きです。
The One Clubが主催するExecutive Creative Summitの様子
Kevin:エグゼクティブ・クリエイティブ・サミットは招待オンリーで、録画・録音禁止のクローズドなセミナーなので、オープンなセミナーでは話せないような本音や守秘性の高い情報も聴くことができます。
木村:今年はAIがテーマですが、普段なかなか聴けない話や見ることができないものがありました。録画・録音禁止なのでシェアできませんが。英語が分かる人にはかなり刺激的な場所だと思います。
Kevin:120人限定でクライアントやエージェンシーのCEO(最高経営責任者)、CFO(最高財務責任者)、COO(最高執行責任者)、CCO(最高クリエイティブ責任者)など「C-Suite」のみが参加できます。ファウンダー、パートナーか、肩書に「チーフ」がついた人しか会場にはいませんし、リストも参加者に公開されています。ラウンドテーブルでスピーカーと直接話すこともできます。
木村:最後に、有名なグローバルブランドではなく、ローカルブランドがThe One ShowやCreative Weekのイベントに参加する意義についてアドバイスしてください。
Kevin:地域に根づいたローカルオリジナルブランドが、グローバルステージに上がっていくためには、アイデアや情報を交換したり、グローバルブランドの視点からものを見たり、グローバルリーダーたちとのネットワークをつくることが必要になります。そういう点において、The One ShowやCreative Weekは役に立つと思います。
ここには、ローカルブランドがどのようにグローバルブランドになっていくかのケーススタディやストーリーがたくさんあるので、ぜひ参加していただきたいと思います。
木村:ありがとうございました。
The One Club CEO・Kevin Swanepoel氏(左)と著者(右)
