コスモ石油マーケティングの岡田正・取締役常務執行役員と、NTTドコモの国井嘉秋氏、寳來祐貴氏、堀内史正氏に、協業の背景から成果に至るまでのプロセス、今後の展望について聞いた。
先駆者として市場開拓も、従来型手法は頭打ち
━━カーリース事業の取り組みと課題、また両社の協業の背景についてご紹介ください。
岡田:コスモ石油が個人向けカーリース事業に乗り出したのは2010年のことです。2012年ごろには、郊外の主婦層を中心としたセカンドカー需要を取り込み、市場を開拓してきました。石油元売り業界では先駆者としてのポジションにありました。
コスモ石油マーケティング 取締役常務執行役員 岡田正 氏
一方で、市場が拡大し競合が多数参入してきたことに加え、近年の人手不足もあり、サービスステーション(以下、SS)というリアル店舗をメインとした販売モデルに限界を感じ始めていました。また、マーケティング活動としてマス広告やデジタル広告も展開してきましたが、本当に届けたいお客様に最適な形でアプローチできているのか確信が持てずにいました。顧客像を明確につかみきれていないという課題感もありました。
国井:ドコモとしては、今年で10年目を迎えるdポイントの加盟店として、コスモ石油様とは長年のお付き合いがあります。2020年以降、カーリース事業の成長支援に向けて様々な提案を行ってきた一方で、事業成長や顧客ロイヤルティの向上に十分貢献しきれていないというジレンマも感じていました。そんな中、昨年から当社が持つデータとAI技術を活用した支援に注力し始めました。
NTTドコモ カスタマーサクセス部 担当部長 国井嘉秋 氏
━━具体的な施策内容について教えてください。
寳來:当初は、契約が見込まれる方の属性を予測しターゲティングする方法を検討しましたが、そのアプローチにどこか確信が持てませんでした。そこで着目したのが「行動データ」です。コスモ石油様とは、過去にもカーリース契約者様向けのdポイントキャンペーンなどを実施しており、関連データが蓄積されていました。これに、ドコモが保有する約1億のIDの多様な購買・行動データを掛け合わせ、過去にカーリース広告へ反応した方や実際に契約された方の「行動」をAIで機械学習させることで、契約に至る“予兆”を捉えられないかと考えました。
NTTドコモ カスタマーサクセス部 主査 寳來祐貴 氏
岡田:過去のキャンペーンデータなどをもとに、お客様の興味関心と契約可能性を科学的に紐づけるというアプローチは、非常に納得感がありました。AIを活用することで、今後も我々が想像もしていなかったような顧客像が見えてくるかもしれないと、大きな期待を寄せています。
AI分析が解き明かす「カーリース契約の予兆」
━━具体的にどのように分析を進めていきましたか。
堀内:AI分析エンジンを活用して人の行動パターンを数式に落とし込むことで、将来的にカーリースを契約する可能性を予測しました。こうした予測を可能にしたのは、当社とコスモ石油様が長年にわたり、多様な行動データを蓄積してきたことが関係しています。
例えば、コスモ石油様の給油データやカーリースの契約データ、当社が保有するドコモ経済圏における行動データなどを統合し、AIにこれらを一括で学習させました。その結果、人間では把握しきれない数百の特徴量から、カーリース契約に至る前の「特徴的な行動パターン」を的確に抽出し、予兆スコアとして数値化することが可能になったのです。
NTTドコモ マーケティングイノベーション部 堀内史正 氏
実は、私たちは2年前にも同じテーマに取り組んでいました。当時の分析で重要と判断した特徴量は、今回のモデルが示した上位要素とほぼ同じでしたが、今回の施策では成果が2年前の10倍以上に達しています。その背景にあるのが、ターゲティング手法の違いです。
当時は「A・B・Cが重要なら、これらの値が高いユーザーを選ぶ」というアプローチをとっていました。しかし今回は、複数の特徴量を重みづけし、予兆スコアへと統合。人間では捉えきれない行動パターンをAIが洞察し、成果を大きく押し上げる要因となりました。
━━施策を進める中で印象的だった気付きはありましたか。
堀内:分析を進める中で最も驚いたのは、コスモ石油様のSSの利用データが、カーリース契約予測において極めて重要な特徴量、まさに“肝”となっていたこと。SSでの行動パターンが、契約の可能性と明確な相関関係を示していました。
これは膨大なデータを分析してわかったことです。既存顧客のペルソナ像は、従来は「こんな方だろう」と想像に過ぎないものでしたが、より解像度が高く、具体的になりました。それによって、優良顧客の属性や行動特性を持つユーザーと似たユーザーを新たな潜在顧客として発掘することができたのです。
国井:この発見は非常に大きかったですね。これまでは、契約可能性の高い層を特定するための科学的なアプローチが不十分でしたが、データ分析により具体的な可視化が可能となり、ターゲット選定の精度が向上しました。
堀内:ただ、AIは有望な顧客候補を特定することは可能ですが、「何を伝えればお客様の心が動くのか」という点については人間の創造性や知見が不可欠です。AIが算出したスコアに基づき顧客をセグメント化し、それぞれのセグメントに最も響くと考えられるメッセージやクリエイティブを、コスモ石油様のチームが中心となって何十パターンも作成いただきました。
予測と結果が一致、申込数は前年比3.3倍に
━━AIによる高精度なターゲティングと、人間によるクリエイティブ開発。この連携が成果につながったのですね。
岡田:まさにその通りです。結果として、カーリースの新規申し込み数はAI導入前の同様のキャンペーンと比較して3.3倍になりました。これまでのマーケティングでは経験や勘に頼る部分も多く、正直なところ予測と結果が大きく乖離することも少なくありませんでしたが、今回は科学的かつ論理的なアプローチにより、予測と実際の結果がほぼ一致しました。経営的な視点で見れば、無駄な広告宣伝費を抑制できるというメリットも感じられましたね。
堀内:今回の成果データもAIモデルのさらなる学習に活用しており、予測精度のさらなる向上に役立てています。このAIモデルは、コスモ石油様と当社にとって、カーリース事業だけでなく他の事業領域にも応用可能な共有の「事業アセット」になると考えています。
━━今後の展開について、どのような可能性を考えていますか。
岡田:今回の分析では、カーリース契約の可能性が高い方は、例えばドラッグストアでのd払い利用が多いといった興味深い傾向も見えました。今後は、こうした異業種との連携キャンペーンなどを通じて、より見込み顧客への理解を深めていきたいです。また、ドコモ様が持つ映像配信サービスなどのデータを活用し、カーリースに関心が高い層がどのようなコンテンツを好むのかを分析できれば、マス広告も含めたメディア戦略の最適化にもつながるかもしれません。
国井:そうですね。データを活用し、新たな可能性を模索できればと思います。また、改めてSSというリアルな顧客接点の重要性も再認識させられました。現場(SS)とデジタルの力を掛け合わせ、カーリースや車検といった個別のサービスにつなげていく。この両輪でのコミュニケーションが重要だと考えています。現在は、まだコスモ石油様がアプローチできていない「未知の顧客」にどうリーチしていくのかといったテーマについても議論を始めています。業界の中で常に一歩先を行くような取り組みを、これからも共に続けていけるとうれしいですね。
コスモ石油×ドコモ 協業による施策のポイント
・コスモ石油のカーリース事業は、先駆的な展開で市場をけん引するも、競争環境の変化などで従来型のアプローチに手詰まり感があった。また顧客が見えにくいという課題を抱えていた
・過去のカーリース契約者の行動データ、dポイント加盟店の購買データなどに着目。AIで機械学習させ、カーリース契約に至る前の「特徴的な行動パターン」を抽出した
・コスモ石油のSSの利用状況とカーリース契約に明確な相関関係があることが判明。リアルな顧客接点の重要性がデータで裏付けられた
・データによる仮説をもとに顧客をセグメント化し、それぞれに適したメッセージを作成。これらの施策の結果、カーリースの新規申し込み数はAI導入前と比較して3.3倍に。
・予測と実際の結果がほぼ一致したこともポイント。プロモーション施策の仮説検証によって、投資の無駄を抑制することにもつながる
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